今回は ―― ただのさえない男だった医師が美容外科の世界に入って、だんだんイケメン美容外科医っぽくなっていく ―― 知られざる過程についてのお話です。
「おはようございます!今日からお世話になります、熊谷と申します!」
医局に姿を現したのは実直そうではありますが、美容外科医としてはやや残念なちょっとダサい男の子です。
男の子とは言ってもアラサーではありますが……医師の世界ではまだまだひよっ子。この業界の掟を知らないウブな新人さんです。
「ん、よろしくね……」
熊谷くんは真面目で穏やかな人柄のよい好青年で、すぐにクリニックのスタッフたちとも打ち解けました。
美容クリニックは女性の多い職場です。
そんな場所で一緒に働く男性は本人の知らないところで秘かにあだ名を付けられ、愛情を込めてあだ名で呼ばれていたりします。
熊谷くんは中身は好青年なのですが外見はモサっとしています。
大きくて少し脂肪ののった身体、毛深い手足、さえない優しげな顔……、あだ名が「クマさん」になるのは自然な流れでした。
そのあだ名がついてすぐ、クマさん改造計画の話題が女性スタッフの間で出てきました。
中高生の頃からずっとイケてる女子として生きてきたであろう、可愛くておしゃれな女性たちです。
「クマさんがダサく見えるのって、絶対に青ヒゲと毛深い手足のせいだと思うの!」
明るくて世話好きなナースの永井さんがそう言うとみんな賛同しました。
さすが美容クリニックのベテランナースです。
どうやったら目の前の男性の外見レベルを最短で上げることができるのか、的確に判断できるのです。
(クマさんの場合は脱毛ですが去年の新人ドクターはニキビ肌治療でした)
「先生~、クマさんはまず脱毛したほうがいいと思うんですけど、私たちからは言いにくいから先生からさりげなく伝えてもらえません?」
ふふふと微笑む表情に、少しイタズラっぽさが見え隠れします。
「え~、やっぱりそれ私の仕事かな?(笑)」
そんな風に返事をしつつも、親しい男性を垢抜けさせるのは女性にとってはけっこう楽しいものです。
(さてさて、どうやって彼を脱毛する気にさせようかしら……)
医局で隣の席に座っている熊谷くんをチラチラと見ながら思案を巡らせます。
真面目なタイプですから
「患者様が受ける施術を自分でも体験することが大切なのよ?」
といった王道のアドバイスが良いかもしれません。
そこに突然ガチャっと勢いよくドアを開けて医局に入ってきたのは、ベテラン美容外科医の斎藤先生。人気のイケメンドクターです。
清潔感があるのはもちろん、センスも良く、とても40代には見えません。
底抜けに明るい性格で実力も自信もあって素敵ですが、少しデリカシーに欠けるところが玉にキズです。
(まさか、熊谷くんに……!)
瞬時に私が感じた不安は、あっさり的中しました。
「熊谷先生! 朝から青ヒゲが目立つし、夕方になるともう伸びて無精ヒゲになってるよ!
絶対、ヒゲ脱毛したほうがいいから。不潔っぽいしダサいよ。
ほら、俺なんてずっと前にヒゲ脱毛してるからこんなにツルツルで肌もキレイだろう? ハハハッ!!」
と言い放ったのです。
(これだから、デリカシーのない男は……)
熊谷くんは、鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、
「は、はい……」
と言うのが精一杯でした。
いずれにせよ、熊谷くんが垢抜けるのに一番大切なのは「脱毛」だとあの斎藤先生も思っていたということが分かったのは収穫です。
美容クリニックというと、すぐに「美容整形」というイメージがあるかもしれません。
でも、実際のところは顔立ちをどうにかする以前に「清潔感」を出すのが先決です。
そこをクリアしていない男性のなんと多いことでしょう。
こうして、クマさん改造計画が、幕を開けました……
コメント